美味しいと聞いていた食べ物や有名な観光地を訪れた際、実際経験した後その期待と明らかに違ってしまうと、自分自身を納得させるのにえらく疲れる。逆に、大して期待していなかったが、訪れてみてそのすごく驚く場所もある。 例えば前者がベトナムの幾つかの街であり、後者がインドのオルチャ等である。 贅沢を言えばほとんど情報を持たず、ゆっくり時間を掛けてその地その地で思いのままに旅をする。何も先入観がない分すべてが新鮮に映るだろう。理想の旅だと思う。間違っても今回のように1泊(2泊?)での駆け足のような観光はあまりしたくないと改めて思った。 その「駆け足のような観光」となった舞台、香港に着いたのは1月4日、まだ正月気分が明けきらぬ時期である。 急ぎになってしまった理由は、日本からタイに戻る際のトランジットを利用した(年末年始)為だ。しかも不運な事に香港到着は22時10分。混みあう時期だから仕方がないのだが。。 香港は意外に暖かかった。空港内はエアコンが効いていてちょうどいいぐらいである。幾らか両替をして、スーツケースを預かり所にて預ける。と言うのも、今夜は空港で寝るつもりだからだ。不慣れな香港、そして深夜到着。金銭的に余裕があれば何時に着こうが宿を得ることはできるが、貧乏パッカーなので出来るだけ節約したい。2泊程度なので多少の無理は覚悟の上だ。
かなり高額なので少し臆したが、これは買っておいて大正解だった。 少し説明すると、このカードは「香港の多種多様な乗り物をほぼすべて乗ることができるカード」である。50香港ドルが保証金で、100香港ドルが実際使える金額である。香港には地下鉄やバス、フェリーにトラムと非常に多くの乗り物があるが、そのほとんどが2.2香港ドルとか3.5香港ドルと言った半端な金額なのである。いちいちこんな小額硬貨を用意するのはまず不可能なのでこのカードがあると随分助かる。 もちろん余った金額はカード返却時に返ってくる。しかも利用毎に割引されると言うのだから有り難い。 さて、まず今夜の宿(空港)を少し散策する。 既に23時を過ぎているが、ロビーはそれなりの人で賑わっている。チェーン店だろうか、ラーメン店やバーガーショップにも人がいる。それなりに明るいし、あまり冷える事もなさそうなのでひとまず安心だ。明日の朝乗る予定のバスもチェックし、コンビニで買い物を済ます。ミネラルウォーターが7香港ドルか(約105円)。高い。。
念の為持参したワイヤーでカバンをロックし、横になる。眠れるかどうか分からなかったが、知らぬ間に意識がなくなっていた。 一晩中明るい空港だが、時計を見ると5時過ぎを示していた。結構寝たようだ。空港で顔を洗い、市内に出ることにした。今日の予定は昼過ぎではマカオで、午後からは香港散策である。 6時20分、東涌行きのバスに乗る。恐る恐るオクトパスカードをかざすと、「ピッ」という音がする。大丈夫のようだ。椅子に座る。まだ暗い。思ったより眠れたので体は軽い。 10分ほどで地下鉄(MTR)の「東涌駅」に着く。ここから終点の香港島にある「香港駅」までこれ1本で行けるのだ。便利である。地下鉄の椅子はプラスチック製で冷たくあまり座り心地は良くなかったが、窓からは夜が明け始めたオレンジ色の風景は中々のものであった。海と、そのすぐそばに立つ高層ビル群。そして山。香港のイメージ通りだ。
土曜日の朝と言う事もあり、ほとんどの店が閉まっている。そのままフラフラと歩いて上環近くにあるマカオ行きフェリーターミナルまで行く。こちらは逆に土曜日の朝の為か結構な人がいた。143香港ドルで8時発のチケットを購入する事が出来た。時計を見ると7時45分。仕方なく走ることにした。 尚、マカオは同じ中国でも入国審査がある。つまり香港で出国する事になるので、パスポートに判が押される。入国審査と言っても単純なもので、思ったより時間は掛からなかった。 船は乗り降りの際に多少揺れただけで、走り出すと結構快適であった。船内でマカオの情報を頭に入れようとガイドブックを開けたが、寝不足のせいかほとんど頭に入らない。仕方ないので入国カードを記入したり、外の風景を見るなどして時間を潰す。 1時間後の9時にマカオフェリーターミナルに到着した。 こちらの入国手続きもかなり適当で、パスポートに判を押すだけで入国できた。さて、実はマカオに来ると通貨も変わる。マカオパタカという通貨になるのだ。紙幣収集家としてはコレクションが増えるので嬉しいことなのだが、香港同様金額が高い。しかも同じ紙幣で2種類ずつあるので集めようとすると倍の金額がかかる(香港は3種類・・)。まったくもって収集家泣かせだ。しかもフェリーターミナルに両替所すらない。香港ドルがそのまま使えるので問題はないんだが。。
ご存知の通り、マカオも香港に続き1999年ポルトガルから中国に返還された。400年も昔にキリスト教布教の拠点としてマカオの歴史は始まったのだが、16世紀にはキリスト教弾圧から逃れてきた日本人も来ていたらしい。ポルトガルの支配下だったので、その影響で街には南欧風の建物や教会が数多く残っている。今でこそ随分中国化が進んでいるが、所々にまだその面影が残っているとの事。 そして2005年、マカオがその東西文化の交流点としての価値が認められ、世界文化遺産に登録された。 さて、バスは快調にマカオ市内を走っている。でも、どうも自分の中にあるイメージとは違っている気がする。まず、失礼だが思っていたよりも随分と都会である。香港ほどではないがそれなりのビル郡が立ち並び、それ以上の多くの車で道は埋まっている。どこを走っているのか分からないが、ポルトガルの雰囲気もあまり感じられない。中国の一都市と言ったところか。
この辺りになると少しポルトガル風の建物が現れてくるが、何だか何だか不自然である。何が不自然かと言うと、建物が古いのだか新しいのだかよく分からない。綺麗過ぎる。恐らくポルトガル時代に建てられた建物に、近年ペンキなどを塗って修理(?)したのだろう。どうも興醒めだ。 しかも年が明けたというのにまだクリスマスツリーなどが飾ってある。キリスト教の人には悪いが、これが世界遺産の物件か、と思ってしまった。。 セナド広場を歩く。何度もくどいようだが、自分が思い描いていた古きポルトガル支配のマカオなどはまったくなかった。とにかく人、人、人。そして車にバイク。耳にはあちらこちらからガガガと工事のする音が響く。ほんの一部しか見ていないので結論はまだ早いが、ここは「観光地マカオ」であり、「世界遺産マカオ」ではない、それはまた別の場所にあるはずだと思った。いや、思いたかった。
「美味しいじゃん」 見た目通りの味で安心した。6パタカ(90円)とそれなりの値段はしたが、一度は食べてみてもいいものだ。
「おおっ」と思わず声が出る。 見た目はただの壁だが、実はこれ以前は教会だったとのこと。建設は17世紀。イエスズ会が建てたらしいのだが、1835年に起こった火事で今ある正面の部分を除いて燃えてしまったらしい。それまでは東洋一の壮大な教会だったようだ。どんな教会だったのだろうか。是非見てみたかったものだ。 そしてこれ、裏側から登る事ができる。見晴らしはいいのだが、結構高いので怖かった。 セントポール天主堂跡を後にし、どこに行こうか迷ったがとりあえず適当に歩くことにした。足は自然と路地路地へと進む。こういった路地裏には必ず庶民の生活の臭いがあり、美味しくて安い店があるはずだ。 そう、まだ飯を食っていない。 路地裏を歩くと、確かにマカオの生活があった。訳の分からん店もあるし、観光客でない庶民もたくさん歩いている。でも、何かが違う。 何だろう。わからない。何か、こう体に響いてこない。街歩きはとても好きで、四川省の古都ロウ中などは歩いているだけで楽しかった。マカオも変わった歴史のある街なのだが。。どうも理由が分からない。 歯車が合わない時は他事もずれてくるもので、路地にあった食堂に入ったがここでの飯は非常にまずかった。麺を食べたのだが、タイで売られているショボイ乾麺をスープに入れて出されただけのような感じ。腹が減っていたので食べたが、決して「うまいもの」ではなかった。
1つは「聖ドミニコ教会」。騒がしいセナド広場にありながら、中はとても静かな場所である。神聖な雰囲気が漂っているとでも言おうか。建物内には何体かのキリスト教関連の像が置かれてあり、座っている人達は静かに祈りを捧げている。写真撮影は問題ないようだったが、一眼レフのシャッター音がうるさいのでは、と心配になるほどである。 キリスト教ではないので祈り方が分からなかったが、しばらくそこで座っている事にした。 もう1つは「牛乳プリン」。同じくセナド広場で食べられるのだが、甘くて疲れた体には嬉しいデザートである。12パタカ(約180円)とかなり高額だが、これも一度食べてみてもいいものである。 その後休憩を兼ねて近くにあるモンテの砦に向かった。が、予想以上の急な坂に逆に疲れてしまった。でも、砦はそれなりに景色がよく涼しかったのでぼんやりと休憩する事ができた。大砲などが置いてあるので大砲好きの人は行ってみるのもいい。
期待していた世界遺産マカオは、大量の日本人や中国人のツアー客、そしてお洒落なブティックやコーヒーショップが立ち並ぶモダンな遺産であった。イメージと異なっていたのは、良くも悪くも先入観の為だろう。 行きと同じくセナド広場から3番のバスでフェリーターミナルへ向かう。一律2.5パタカ。途中、カジノで有名なホテルリスボアの前を通った。深夜特急を読んでいる人なら分かるだろう。ちょっと嬉しかった。 香港までのターボジェットは何故か154パタカ。行きよりちょっと高い。2時30分発のチケットを購入。時計を見ると2時15分だった。。仕方ないのでまた走ることにした。 たった15分だが、やはりその間に出国手続きやフェリーへの搭乗が済んでしまうのがなんとも面白い。 マカオに来ることは恐らく今後あまりないだろうが、もし機会があればもっと長く、そしてのんびりとした雰囲気が残るタイパ地区に行ってみたい。ポルトガル料理も食べなきゃいけないし。 そんな事を考えているうちに、帰りのフェリーではうとうとと意識がなくなっていた。
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