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2006年7月8-11日
訪問地【ウドンターニー、ノンカーイ】
※3泊程度の短期旅行です。小説風なので文章はちょっと長めです。



小説・イサーン記
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小説・イサーン記(1)

暑く蒸しかえるピサヌロークのバスターミナルを、たくさんの熱気と人を乗せてそのバスは発車した。
一応車内には空調が付いているが、バスが古い為かあまり効いていない。窓から入ってくる直射日光もこれだけ強ければ暑いはずだろうと、窓の外を眺めながらその30過ぎの男は思った。
ピサヌローク(タイ中部)から目的地であるウドンターニー(タイ東北部)へは計算上では6時間ほど掛かる。早朝からバスに乗り続けてきたのですでに尻に痛みを感じる。それでも日が暮れるまでに次の街に着ければいい、男はそう思った。




バスは時々停車しては人を乗せたり降ろしたりしている。ちょっとした停車時間にも物売りが乗り込んできて商売をする姿は、さながら旅情をかきたててくれる。とうもろこしは5Bと安かったが、虫食いもなく甘くておいしかった。
そんな沢山の人々に交じってもぎりが切符の確認を始めた。切符はすでにバスターミナルで購入してある。外の景色を見ていると、もぎりが近くにやって来たのでとうもろこしを齧りながら胸ポケットに入っている切符を渡した。ところが、もぎりは一目切符を見ると何かを言いながら切符をこちらにつき返してきた。大声を上げて遠くにいる人間と話し始める。その声に反応して周りにいた乗客も何事かとこちらを見始める。一瞬で空気の色が変わった。
ああ、何か良くない事が起こったんだな。男は直感的にそう思った。もぎりが一生懸命に説明を始めたが、残念ながらタイ語のみだったのであまり分からない。見かねた近くのタイ人が英語で説明してくれた。

「バス会社が違ってるよ」

!?そんなはずはない。出発時間と場所はしっかり確認してその通りに乗ったのだ。バスの前にも大きく「ウドンターニー」と書いてある。男はもぎりに抗議したが、もぎりは首を横に振るのみだった。たまらず英語のできるタイ人に聞く。

「じゃあ、このバスはどこに行く?」
「ダーンサイ」
「・・・ダーンサイ??」

タイには仕事でそれなりに住んでいたが全く聞いたことのない地名だった。すかさず持っていた地図で確認したが、残念ながらそんな名前の街は載っていない。それほど小さな街なのであろう。体が少し熱くなるのを感じた。相変わらずもぎりは狭い車内の目の前に立っている。再度抗議しようと思ったが、それがもう無意味だと言う事を男は分かっていた。

「ダーンサイまではいくらだ?」

決断は早かった。ダーンサイまで行くしかない。またそこで乗り継げばいいし、バスがなければ明日どうにかしよう。男はもぎりから言われた乗車賃94Bを払うと、ちんけな紙切れを数枚渡された。やれやれ、男は深くシートに座り直した。もはや誰もこちらに興味を示している者はいなかった。


男は会社の連休を使ってイサーン(タイ東北部)への旅行に来ていた。
一番の目的は世界遺産に登録されている「バーン・チアンの古代遺跡」を訪れる事。それ以外は特になかった。ただ旅がしたかった、あえて挙げるならばそれぐらいだろうか。男はとりつかれる様に旅を好み、旅をした。だが、男にとって旅は特別なものではない。毎日食事をとるように、毎日恋人を思うように、毎日好きな作家の本を読むように、男は旅をした。男が旅を愛したのか、旅が男を愛したのか、それは分からなかったしどちらでも良かった。


一体どこを走っているのだろう。持っていた地図を見ると平坦な道だと思っていたのだが、目に入って来る光景は深い山ばかりだ。バスのスピードも合わせて遅くなる。2時間もするとあれだけ混んでいた車内もほとんどの人がいなくなっていた。
途中、ナコンタイという場所で休憩をしたが、残念ながらそこも地図には載っていなかった。まあ、なんとかなるだろう。こういう時に慌てるのが一番危険な事を男は知っていた。

日も暮れかかった17時30分、バスはゆっくり止まると、車掌が車内に向かって何かを言い始めた。その声に反応して残っていた乗客がぞろぞろと降り出す。どうやらここがダーンサイらしい。

ダーンサイで乗り間違えたバスから降りる
降りて見て驚いた。そこはバスターミナルでもなんでもない普通の道だった。これでは次のバスが拾えない。幾らか開けているとはいえ道沿いに食堂が幾つかある典型的な田舎である。見渡してみても宿屋すらない。困った。すでに空は夕焼けのオレンジ色から濃い青色に変わりつつある。
どうするべきか。
ふと気付くと、周りに男と同じようにぼうっと立っているタイ人が数名いる。持っていた切符を見せながら話しかけると、案の定同じ切符が出てきた。彼らもバスを間違えたのだ。
いける。
男は思った。やがてバスを間違えたタイ人のうちの1人が、切符の裏を見ながら電話を掛け、何かを話し始めた。恐らく交渉しているのだろう。電話の相手と周りのタイ人と交互に数回話すと、彼は電話を切った。
ここで待っていればウドンターニー行きのバスが来るらしい、そう1人の親切なタイ人が教えてくれた。

ふう、男は一息吐くと、どかっと近くの椅子に座った。改めて周りを見回しても何もない。薄暗くなってきているので、尚さら何もないように感じる。ここでまったく1人だったらどうなっていただろう。宿がなければ民家に泊まる事にでもなるのかな。そうなった時自分はどうしただろう?
男がそんな事を考えているうちに、周りのタイ人が騒ぎ始めた。バスが来たようだ。

意外と言うべきか何と言うべき、そのバスは男達が本来乗るべきバスであった。そのバスのもぎりもどうやらこちらを探していたらし。ちょっと固めのバスのシートに座り、外を眺める。すでに外は真っ暗になっており、目的地であるウドンターニーへは何時に着くか分からなかった。やがてバスは何事もなかったかのように男を乗せて走り出した。

早朝からバスに揺られ疲れていたので何度かうとうととしたらしく、その後の事はあまり覚えていなかった。ただ、バスが止まり周りを見渡すといつの間にかにウドンターニーに到着していた。時刻は22時を過ぎている。
ようやくバスから開放される、男は疲れた体に力を入れてバスを降りた。

真っ暗なバスターミナル。
薄暗い蛍光灯の下、得体の知れない人間が数名ベンチに座っている。周りは商店を兼ねたタウンハウスに囲まれているが、当然ながらすでにすべて閉まっている。暗いコンクリートが場の冷たさを助長する。闇夜に1人取り残されたような気がした。
歩いていると数名の男が声を掛けてきた。トゥトゥクの運転手だ。真っ黒な顔に無精ひげ、鋭い眼光に一瞬どきっとする。適当に断り、建物の影で地図を広げる。近くに宿屋ある。とりあえず今日はそこにしよう。見知らぬ街に深夜に到着するのは非常に危険だ。できれば避けたかったが仕方がない。
トゥトゥクの運転手を避けるようにして近くにあるはずの宿を探すが、何故か見つからない。バスターミナルの先は大きな幹線道路だった。こんなところに宿があるはずがない。おかしい。地図が間違っているのか。改めて周りを見回してみても、幹線道路を照らすくすんだオレンジ色の電灯外何もない。

仕方がない、奴らと交渉するか。

「100B」
「50B」
「80B」
「60B」

見知らぬ街。深夜。暗闇。これだけ不利な状況が揃っているので、あまり強気の交渉ができない。まともに連れて行ってくれるかどうかすら怪しい。地図に載っていたホテルまで60Bで交渉成立。いざ乗ってみると意外に街中まで遠い。街のはずれにあるバスターミナルに到着していたようだ。後で知ったのだが、北部からやってくるバスはこちらのバスターミナル(西バスターミナル/新バスターミナル)に到着するようだった。
街中に入るとさすがに屋台で食事をしている人や、24時間営業のコンビニなどが目に入ってくる。明かりを見るとほっとする。トゥトゥクが走ってきた道と目印になる建物を覚えながら揺られる事15分、ようやく最初の宿泊場所に到着した。60Bを払いお礼を言うと、トゥトゥクの運転手は少しだけ笑みを浮かべエンジン音を立てながら暗闇に消えていった。

お湯は冷たかったが・・・
立派なTon Koon Hotel
安いと聞いていたが、意外なほど立派な建物に驚く。
フロントにて空き状況を聞くと運よく1部屋だけ空きがあった。この時期はタイの連休だったので混むのも無理はない。宿泊したのはTon Koon Hotel(1泊700B)。この価格で朝食付きなのには驚いた。時間があれば他にもいろいろ宿を見て周るのだが、すでに深夜になっていたし、何より体が言う事を聞かない。すぐにチェックインした。

700Bとはいえ、実に立派なホテルである。バスタブはあるし、清潔だし、バンコクならば1000B以上は確実にする。とりあえずホテル近くの屋台で食事を済ますと、シャワーを浴び寝る事にした。屋上にカラオケがありかなりうるさかったが、男の睡魔には到底かなうはずがなかった。


データ:
ピサヌローク→ウドンターニー間のバス:217B(14時発22時到着)
西(新)バスターミナル→Ton Koon Hotel間のトゥトゥク:60B






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