ついに念願だった富士山撮影旅行に出かけることになった。 昔、東名高速道路を走りながら何度も眺めた富士山。その大きさと雄大さに「いつかちゃんと撮ってやる」と、ずっと思い続けてきた。その願いがついに叶うのだ。何度も天気予報を確認し、100%晴れの日を選び出発の日とした。 名古屋発は午前2時半。随分早い出発だと思ったのだが、結局これでも少し遅かったと後で後悔する。 GWとは言え飛び石連休の為か、深夜の高速はまだ車がまばらであった。トラックが多く走る高速をひたすら東に車を走らせる。 午前4時を過ぎると、少しずつ空が明るくなり始めてきた。5時10分、目的の富士ICで降りる。 富士五湖周遊には国道139号線(+138号線)が便利である。 ほぼぐるっと富士山を一周しており、富士五湖(本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖)を訪れる事ができる。湖以外の観光地や道の駅などもたくさんあり、富士五湖周遊には欠かせない道路であろう。 最初に訪れるのは田貫湖とした。 富士五湖ではないが富士ICを降りて最初に行ける湖だし、早朝には富士山から日が昇る「ダイアモンド富士」を見る事ができる名所でもある。途中のコンビニで朝食を買い、「白糸の滝」という看板に少し心を奪われながら田貫湖へ向かう。 ところが、である。国道139号線を外れて田貫湖への道を探しているのだが、一向に見つからない。「○×キャンプ場」という看板はやたら目に付くのだが、肝心の田貫湖の看板が全然ない。ナビなど付いていない車なので、数年前に買った「首都圏道路地図」のみが頼り。富士周辺も載っているのだが、大まか過ぎてよく分からん。。
やはりもう少し早く出るべきだった。それに事前調査が足らない。「行けば何とかなるだろう」、と安易に考えすぎていた。日帰りを予定していたので、るるぶなどの情報誌もケチって買っていない。バックパッカー気分ではやはり無理があった。 それでも三脚を立て、富士を撮る。 ちょっと時間は遅かったが、「なんちゃってダイアモンド富士」程度は撮れただろう。これ以上遅れると逆行で真っ暗になってしまうので、これでよしとする。
散々道に迷ったので道路勘がつき、今度は迷わずに到着した。6時半とまだ早かった為どこの店も開いていなかったが、無料駐車場を発見し、早速滝に向かう。 日本の滝100選に選ばれた事もあり、さすがに立派な滝だった。それほど大きな滝ではないが、横長に連なるこの景色はまた違った迫力がある。とても一枚では収まりきれないので続けて何枚か撮る。 早朝の少し冷たい空気の中、滝の音と鳥の声が静かに交ざり合う。自然を感じられるひと時だ。 ちなみにチケット販売などは無かったが、ここって無料だったのだろうか。。
最初の湖は本栖湖である。千円札の裏の絵(旧五千円札)の写真が撮られた場所がある湖だ。白糸の滝から139号線を北上する。すると偶然にも富士山頂に笠を被したような「笠雲」らしき光景が。チャンス!とのことで、道端に車を停め、何枚か写真を撮る。 「俺ってもしかして運がいいのか」 などと考えていたのだが、実はこの富士(ひとつ笠)が見えると天気が下り坂になると知ったのは、後日の事だった。
驚いた事にここではまだ桜が咲いていた。木によって程度は違うがまだ満開の桜もあり、しばらく桜など見ていなかったのですごく得した気分になった。しばらく桜を堪能した後、千円札の裏の富士を求めて本栖湖の奥へと進んだ。 「おかしい・・」 道路脇に立っていた看板にも、持参した「首都圏道路地図」にも、ここが千円札のビューポイントだと記してあるのに、富士など全く見えない。何故だ? 周辺を車で行ったり来たりしてみるが、やはり富士など見えない。千円札を取り出し周りの風景を確認してみるが、やはり先ほどの場所であることに間違いなさそうだ。手前にある山の位置はあっているし、人も数人集まって来ている。 車を降りてよーく見てみると、何とかうっすらと富士山が見えてきた。いつの間にかに随分と雲に覆われ始めていたようだ。しかし不思議な事にこの富士、カメラには写らないのだ。何度撮っても富士が見当たらない。基本的にAFは白い被写体が苦手だと言うが、これほど写らないことは経験に無い。 一体なんだったのだろうか。不完全燃焼のまま、次の富士五湖・精進湖に向かう。 精進湖、富士五湖では最も小さい湖だが、その分静かな雰囲気を持った場所である。 本栖湖と精進湖は距離的には近いのだが、本栖湖で時間を掛けすぎた為精進湖への到着が8時50分とちょっと遅れた。まあ、もともと計画などはないのだが。。 ない。 やはりと言うか何と言うか、あるべきはずの富士の姿がそこになかった。目を凝らせばかろうじてうっすらと富士の姿を見られるが、写真にもほとんど写らない程である。 困った。。 ここまで来てまともな富士の写真が撮れない。富士に掛かる雲は本当に気まぐれなのだが、午後にはすっきりとなくなって欲しいと思う。周りの空はこんなに晴れているのになあ。 富士とは対照的に美しい桜を眺めながら、次の湖・西湖に向かう。 それにしてもこの時期の富士山周辺はとても気持ちがいい。 新緑に心地よい風。もちろんエアコンなど要らず、外からの風が気持ちいい。富士は見えないが、大きな山々が次々と現れ消え、ドライブには最適だ。 そんなことを考えながら、ふと気付くと30分以上も走り続けている。 おかしいなあ、精進湖と西湖も少し距離はあるが30分も掛かる距離ではない。しかもずっと道は下っている。間違えたかな、と考えていると目の前に大きな盆地が現れた。そして看板には「甲府」との表示が。 甲府盆地。 完全に道を間違えたようだ。地図で場所を確認すると、やはり精進湖から道を間違えていたようだ。 急いで来た道を引き返す。 10時20分、西湖到着。 富士以外の空にも少し雲が出始めている。この時間になってくると、微かに見えていた富士の姿すらまったく見えなくなっていた。湖畔で周りでバーベキューをする人の声を聞きながら、見えぬ富士を眺める。
中には氷柱や天然の冷蔵庫があり、昔は夏ここから運ばれた氷が大変重宝がられたそうだ。それにしてもかなり寒いので上着の用意が必要だ。 12時、河口湖到着。 やはりまだ富士の姿はなし。大きく広がる雲の群れがなんとも悔しい。 仕方ないので一時撮影を中断して、昼食にする事にした。 選んだのは「ほうとう」。甲州名物とのことだ。普通より平べったい麺が特徴で、武田信玄が陣昼食として考案したとのこと。
1300円と店に入ってからその価格に吃驚したのだが、一度は食べておきたい麺であろう。ちなみに店の人にうどんとの違いを聞いたのだが、 「うどんより麺が平べったいだけですよ。きしめんって知ってますか。あんな感じです。」 本当に違いはそれだけなのかは知らないが、と言う事は山梨まで来て「みそ味のきしめん」を食べたことになるのか。名古屋人なのに。。
忍野八海とは、その昔富士山麓にあった忍野湖が気の遠くなるような年月を掛けて今の姿になったと言われる場所。美しい湧水が沸き、古い日本民家が残る富士有数の景勝地だ。 一部の地域は有料だが、無料で楽しめるのも特徴。が、駐車料金は掛かる。もしくはお土産を買うことで無料となる。 本来ならここから日本民家と富士を一緒に写真に収める事ができるのだが、やはり富士は雲の中。 澄んだ水やそこに泳ぐ魚、名水から作った蕎麦その他いろいろな物をひやかして時間を過ごす。 山中湖に向かう前に「花の都公園」に寄る。 チューリップやら何らやが年中楽しめる場所で、富士をバックに写真が撮れる場所なのだが、もちろんまだ富士は雲の中。チューリップが植えられてはいるが、何だかあまりにも人工的なのでちょっと引いてしまった。入場無料(一部有料、駐車料金300円)なのだが、結局写真はほとんど撮らなかった。 富士五湖最後の湖、山中湖に到着。 もはやここから富士が眺められるとは、思うことすら信じられなくなっている。富士なんて本当にあるのかと思うほどだ。 夕方ほとんど期待しないまま、三国山パノラマ台に向かう。山中湖と富士山を一望できるビューポイントなのだが、富士が見えなければ意味はない。 ところがである。ほとんど期待しないまま到着したパノラマ台からは、雲の晴れ上がった富士が姿を現していた。既に夕陽の中の富士だったが、あれほど雲に覆われていた富士が嘘のように消え、美しい姿を見せている。 少し肌寒いが、多くのカメラマンに混じってたくさんシャッターを切った。 やはり富士は大きくて美しい。 そしてこの時には今日は一泊して、明日も写真を撮る事を決めた。シルエットの富士しか撮れていないのに帰る訳には行かない。
帰りに山中湖から夜の富士を撮り、コンビニで夕飯を買い、道の駅「富士吉田」に到着。 山中湖周辺にはたくさんの宿、素泊まりできる宿もたくさんあったが、既に21時、明日午前4時には出発しなければならないので、貧乏バックパッカ−である自分は迷うことなく車泊と決めた。道の駅ではトイレと駐車場は24時間利用できるとのこと。本当に有難い。 前日午前2時から運転していた為、シートを倒すと直ぐに眠りに落ちた。 寒かった。 こんなに寒いとは思ってもいなかった。夜、特に朝方の冷え込みは予想以上である。念の為に持ってきていた毛布と、大量の服がなければ体調を崩していただろう。 結局起きたのは午前4時半。4時には出発する予定だったので、寝過ごした事になる。顔も洗わず大慌てで昨日のパノラマ台に向かった。 午前4時53分。パノラマ台には既に多くの人で賑わっていた。そして、その先には思い描いていた通りの雄大な富士の姿があった。
「ああ、綺麗だ」 昨日、見たくてもどうしてもどうしても見れなかった富士がそこにある。雄大な富士。そして雲ひとつない快晴。眼下に広がる山中湖は霧が立ち込め、幻想的な雰囲気を出している。今日こそは美しい富士が撮れるかもとの期待が沸く。 三国峠パノラマ台からは朝日だと順光になるので、運が良ければ赤い朝日に染まった富士(赤富士)が見られる。周りのカメラマンもそれを狙っているようだ。
パノラマ台から美しい富士を眺め、コンビニで買った朝食をとる。日本の米はやはり美味い。コンビニのおにぎりですら十分すぎるぐらい美味しい。ああ、しあわせだ。 さて、今日は昨日撮れなかった「富士五湖と富士山」を撮りに再び昨日走った道を走る。リベンジだ。 6時15分山中湖にて「霧の富士」、7時10分に河口湖にある大石公園(自然生活館)にて「花と富士」、同じく河口湖にて「木と富士」、8時には西湖で「西湖と富士」(←そのままやねん)を撮影。
順調に撮影は進んだのだが、西湖まで来るとやや逆光気味になり、後ろの空が白っぽく写るようになってきた。太陽との位置関係で午前中は山中湖からの撮影が1番良いのだが、今は既に西湖まで来てしまっている。戻るべきか、それとも先に進むのか。 悩んだが、今回は撮影旅行。ベストの状態で富士を撮る為に山中湖まで戻る事にした。
完璧、とは言えないが、それでもまあ全体として納得できる写真となった。10時半には再び昨夜寝た「道の駅富士吉田」に戻り、ちょっと早い昼食を食べる。 選んだのは「吉田うどん」。この辺りの名物だそうだ。濃い目のスープに太く固めの麺が特徴。450円と価格もリーズナブル。でも、人気商品とあった「うどんたいやき(200円)」は微妙であった。 眠気を飛ばす為に缶コーヒーを飲みながら、11時50分精進湖に到着。 富士の前に小さな山が来ることから、「子抱き富士」と呼ばれているそうだ。何枚かシャッターを切る。12時には本栖湖にて千円札の裏にある「千円札の裏の富士」も写真に収める事ができた。ただ、この時間になると少し雲が出てきて輪郭がはっきりしなくなってしまった。 帰り際、今年が第一回目という「芝桜まつり」というのが開催されていたが、まだ3分咲きだった為今回は見合わせた。代わりに帰りに寄った朝霧公園で「牛と富士」を撮る事ができた。 名残惜しいが、そろそろ帰宅しなければならない。日のあるうちに名古屋まで帰るにはこの辺りが限界だし、寝不足と疲れで体力も尽き始めている。13時半、行きと同じく富士ICより東名高速道路に入る。直ぐに富士川SAにて最後の富士を眺めた。残念ながら昼過ぎなので霞んでほとんど見えなかったが、富士に別れを告げるにはちょうど良かったかもしれない。 初日こそ曇りでほとんど見えなかった富士だが、2日目にはその雄大で大らかな姿を見せてくれた。日帰りが1泊になってしまったが、その価値は十分にあった。いや、初日で帰らなくて大正解であった。 それにしても富士とは、どれだけ撮っても満足できない被写体であろうと思う。季節、いやその日のうちですら様々な表情を見せるし、独立峰なのでどこから撮っても美しい姿となる。雲のひとつ、花のひとつとっても富士では様々な表情を撮れる。正直1週間ぐらい泊まり込んで、色々な場所から撮影してみたいものだ。 やはり定年後は富士が見える場所に住もうかな、と本気で考えてしまうほどの見事の山だ。
富士撮影旅行データ:
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