第二章:「いざ旅の世界へ 〜到着、宿探し〜」 騒音と共に男は空港に降り立った。 「暑いな」、男の第一印象である。 タビタビ王国は熱帯気候に属している為、北部の山間部を除き一年中半袖で過ごせる。 暖かいというだけで、すでに旅しやすい国であった。 入国手続きを済ませると、男は両替を行う事にした。 同じようなブースがたくさん並んでいる。よく見ると奥に各国の両替レートが書かれている。中にいる人間がこっちで両替しろと手を招いているのが見える。 何件か回ったが、どこも同じようなレートだったので一番空いているところで3万円両替した。 到着ロビーに出ると、信じられないぐらいの大勢の人で溢れていた。 男女とも南国特有の浅黒い顔立ちが目立つ。空調はかなり効いているが、独特の雰囲気の為か男は体が火照るのを感じた。有名旅行代理店のシャツを着たガイドらしき人物や、白人パッカーに交ざり、日本のガイドブックを開けながらツアーカウンターで何かを尋ねている日本人旅行者もいる。 男はまずリコンファームをする為に航空会社のオフィスに向かった。 オフィスでは身なりは綺麗にしているが、まったくやる気のない女性社員が対応した。 こちらも必要最低限の言葉しか発しなかったのだが、結局やる気のない女性社員とは最低限の会話だけで手続きを終えた。 再び到着ロビーに戻ってきた男に多くの現地人が話しかけてきた。 「タクシー?」 「タクシー、サァー?」 「ホテルは決まってるのか?」 「シャチョウ、タクシー!」 「タビタビ人、ウソ、ツカナイ」 まったくもって魑魅魍魎である。中にはきちっとした身なりの人間もいるが、大半がこれ以上なく怪しい。 男は軽くあしらって外に出ると、エアポートバスと書かれたプレートの下で市内までのチケットを購入した。 30分程待つと、お世辞にもきれいとは言えないバスがやって来た。
1時間ほど走ると、それまでの何の特徴もない幹線道路から少しずつだが建物が増えてきた。やがて市内に入るのが分かる。隣で眠っていた白人パッカーも起き出してきた。 「そろそろかな」 男はカバンの上部に入れてあったガイドブックを開けると地図を眺めた。 しばらくしてエアポートバスは、人通りの多い雑然とした一角に止まった。一番前で立っていたもぎりが小声で何かを喋りだすと、前の方に座っていた乗客がバスから降り始める。どうやらここが旧市街地らしい。 首都ボッタレーはかなり大きな街だが、商業地、住宅地、そして観光地が何の規律もなく交ざっている。あまり都市計画が上手く行っていない証拠だが、それが却ってこの街の猥雑さを出していた。そしてここ旧市街地には、バックパッカー用の旅行代理店やゲストハウスがたくさん集まっていた。 男はバスを降りると周りを見渡した。 「旧市街地には間違いなさそうだな」 雑然と曲がりくねった道沿いに、たくさんの商店や小さな食堂が並んでいる。古ぼけた自転車に交ざり、小型のバイクが勢いよく走っている。何もせずに道沿いに座っている人、何かを食べている人、そして寝ている人。日本からたった数時間でそこには確実に男の知らない非日常が広がっていた。 男は改めて周りを眺めた。 古いが結構大きなホテルが目に入った。「ホテル・・・ 『エクスペンシブ』・・・・ ああ、今ここか」 男はホテルの位置と地図を見て、現在位置を確かめた。予め予定していた安宿が近い。しかしすぐ道の反対側にある古びたゲストハウスが気になっていたので、まず行ってみる事にした。男はバックパックを背負い歩き始めた。 ゲストハウスに入ると幾つかの椅子の先にあるカウンターに、初老の男が新聞を読んでいるのが目に入った。壁の至るところにボッタレーの観光地の写真が張ってあり、その横に値段も書かれている。旅行代理店も兼ねているようだ。 「今夜の部屋は空いているか」男は尋ねた。 「シングルか、それともドミトリーか」 男は少し悩んでから「シングル」と答えた。 初老の男は乱雑に壁に掛けてあるルームキーを手にすると、ついて来いと言う。 「値段はいくらだ」男は初老の男を制止するように尋ねた。 「シングル1泊250ボリーだ」 「ホットシャワーはあるのか。エアコンは?」 「ホットシャワーはある。だが、エアコンはない。ファンだ」 「エアコンの部屋はないのか」 「ある。1泊500ボリーだ。どうする?」 男は少し考えてから、ファンを見せて欲しいと頼んだ。初老の男は奥に向かって何かを叫ぶと、14,5歳だろうか、お下げの少女が男の前に現れた。この少女が部屋を案内してくれるようだ。 薄暗く細い階段を3階まで上がってゆくと、少女はある部屋の扉を鍵で開けた。お世辞にも清潔な部屋とは言えない。男はしばらく部屋を見て回った後、入口で立っている少女に尋ねた。 「エアコンルームはこの上か?」 少女は片言の英語で答えた。 「上だけど、見るの?」 「ああ出来れば頼む」男は答えた。 1階にあるレセプションに戻ると先ほどの初老の男が尋ねてきた。 「どうだ部屋は?気に入ったか?」 男は答える。「ああ、なかなかの部屋だ。だが他の宿も見てみるよ」 「そうか、分かった」 男は簡単に礼を言うとゲストハウスを出た。 腕時計を見るとすでに16時を過ぎていた。まだ日はあるが、それほど時間はない。男は近くにあった宿を2,3軒見た後、予定していた宿に辿り着いた。 「こんにちは」 レセプションには笑顔の魅力的な30過ぎの女性が立っていた。 「今夜の部屋は空いているか」 「シングルでいいですか」 「ああ、1泊いくらだ」 「1泊300ボリーです。何泊しますか?」 「分からない。先に部屋を見せてくれないか」 「OK、ついて来て」 30過ぎの女性は慣れた手つきで男を部屋へ案内した。通された部屋は日当たりがよい明るい部屋だった。エアコンはないが、天井に大きなファンが付いている。清潔だし、一応合格ラインだ。 にっこり笑いながら30過ぎの女性が続ける。 「今日、ここが最後の部屋よ」 直感的に嘘だと思ったが、総合的に考えて一番ベストな宿だと感じたので決めることにした。 「OK,2泊したいのだが・・」 「わかったわ、じゃあパスポート見せてくれる?」 男は(貴重品入れの)腰巻にあるパスポートを取り出した。
「いい加減腹が減ったので長い説明はもういいだろ!」 宿の説明をしていた30過ぎの女性は驚いた顔をして男を見つめた。 「すまない。こちらの話だ」 幸い日本語で話した為彼女には理解できなかったようだ。 すでに18時を過ぎており、外は薄暗くなってきている。男は食事をする為に外に出た。 第三章:「食事と楽しい観光」へ バーチャル旅日記トップへ Homeにもどる |